2016年3月10日木曜日

治験の目的は治療なんかじゃない

大きな病院のスタッフとして働いていた頃にはほとんどTVドラマなど視なかったのですが最近は、少なからず視ています。図はフジテレビの「フラジャイル」です。病院に勤務する病理医が主人公です。

日本の医師、約30万人に対して病理医は2000人余りしかいません。術中迅速診断や、病理解剖を十分に行うには少なすぎる人数です。事実かどうか不明ですが、病理学会で病理医を主人公にした「月9」ドラマを作れば人気が出て病理医が増えるのではないかと議論があったそうです。しかし、地味な病理医を主役にした「月9」などとても無理だろうという結論になったそうです。病理学会でこんな議論をする筈もないので、酒の席での話でしょうか?

3/9の放送では武井咲が演ずる宮崎先生の幼なじみががん患者として登場しました。有効な治療法がない中で、治験薬を使って治療を受けたいという話です。長瀬智也演ずる岸先生は、宮崎先生に「治験の目的は治療なんかじゃない」と言います。

その通りです。

治験の目的は新たに開発された薬剤が安全で、なおかつ有効かを調べることです。この目的のために治験のプロトコールが作成されます。決して、最も有効な使い方を調べるという目的ではありません。

当ブログで、最も多くの記事を書いている新規抗凝固薬ですが、その用法・容量はほぼ治験時のプロトコールのままです。例えばダビガトランですが、1日150㎎の使用は治験時には調べられていないので、この用量での処方は用法・用量違反ということになります。この処方で脳梗塞が発生した場合、医師の責任が問われるという講演の演者もいます。しかし、2013年6月14日付当ブログ「プラザキサ 75㎎x2capで得られた十分な効果」に記載したように高齢の低体重の女性ではこの量の処方の方が安全な患者が間違いなく存在します。
アピキサバンの減量基準(年齢80歳以上、体重60㎏未満、クレアチニン15.㎎/dl以上のうち2つを満たす場合には減量する)もこの基準が最も安全だというエビデンスは存在しません。ただ治験の時にこのプロトコールを採用したというだけです。リバーロキサバンのクレアチニンクリアランスだけで減量するか否かを決めるのも同様です。オフラベルとされるエドキサバンの1日 15㎎の処方も高齢の低体重の女性では良い選択になるだろうとも考えます。治験にエントリーする時にはこの基準を守らないのは不適切ですが、実際の診療でも不適切なのかどうかは検証されていません。何故なら治験の目的は「患者を治療することではない」からです。

各薬剤の市販後調査ではこのため治験通りの減量基準ではなく、高齢者や低体重の患者には用法・用量よりも少ない量の処方が約30%行われていると言われています。患者を治療することを目的にする医師が考えた結果です。

最も早く市販されたダビガトランは市販後5年が経過しました。プロトコールを作成し、実際の患者エントリーを行い。経過を見て、審査を経て市販されて5年です。プロトコールはいつ作成されたのでしょうか?10年前でしょうか。そんな古い「治療を目的としない基準」に縛られて最善の効果を得ることはできるのでしょうか。講演で用法用量を守れというだけではなく、最善の投与法を提案することが、医師や学会の務めではないのかと思います。

ドラマの中で岸先生は「治験の目的は治療なんかじゃない」と言い放ちます。岸先生はこのドラマの中でいくつかのきめゼリフを使いますが、その中の一つを「治療を目的にしたわけではない基準」を守れという実際の先生方に贈りたいと思います。「あんたは、バカなのか!」

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