2014年11月5日水曜日

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の国内の需要はどれほどあり、実施施設はどれほど必要なのでしょうか?

昨日は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)のハートチームについて書きました。この中でTAVIという治療の需要はどれほどあるのかとも書いたので少し考えてみました。

少し古い資料ですが2008年の胸部外科学会の報告では大動脈弁単弁置換(AVR)の患者数はおよそ7000件であったそうです。この中のどれほどの方がTAVIで治療を受けることになるのか、あるいは低侵襲な治療であるため外科的な大動脈弁置換の適応とならなかったケースでどれほどTAVIで治療を受けられるのかですが、私の勝手な推測ですがAVR7000件の約20% 1500件くらいが日本では最大に見積もった件数かなと思っています。

一方 現在施設認定を受けてTAVIが実施できる施設数はTAVI-WEB.comやTAVR関連学会協議会のWeb siteを見ると全国で30施設ほどです。既に施設認定を受けた施設以外にもTAVIの実施施設の認定を目標にhybrid OPE室の整備を進めている医療機関のうわさも良く耳にします。

既に認定を受けている施設だけで30施設ですからTAVIの需要が年間1500件であれば1施設当たりのTAVIの件数は平均で50件です。更に施設数が増えればこの1施設当たりの件数は減少します。はたしてその程度の年間の実施数でTAVIの治療としての質は担保できるのかと心配しています。

またハイブリッド手術室に加えて、心臓血管外科専門医3名以上、循環器専門医3名以上、カテーテル治療学会の専門医1名以上の人員を施設基準を満たすために揃えなければなりませんから設備に対する投資も人件費も決して少なくはありません。

ある実施施設のWeb siteを見るとTAVIに関わる医療費はおよそ600万円です。年間に50件実施する施設で診療報酬は年間約3億円ですからこれで材料費や設備投資・人件費が賄えるのだろうかと心配です。

自分が投資する訳ではないので余計なお世話だと言われてしまえばそれまでですが、TAVI 1500件に対して30施設でも治療の質を担保するためにも経営的に安定させるためにも過剰な施設数に思えてなりません。更に施設数が増えれば状況はまた悪化します。

日本の心臓外科手術を実施する施設数やPCIを実施する施設数は他の先進国と比較して極端に多く存在します。これに対して1施設当たりの件数が少なくなれば成績が落ちる可能性があるので集約化すべきだという議論が心臓外科学会を中心に展開されたことがあります。この議論は一方で正論ですが、急性の大動脈解離や緊急バイパス手術など搬送も難しい患者さんも存在するのでアクセスをよくするために施設数が多いのも仕方がないという面もあります。一方TAVIはどうでしょうか。よほど悪化するまで内科治療を引っ張らなければ緊急でTAVIを実施しなければならないという場面は発生しないと思っています。ですからTAVIの実施施設は集約化しても構わないと思っています。心臓外科学会ではTAVIの施設基準の議論だけではなく集約化の議論をされているのでしょうか?

経営的に成り立たなくては施設の維持も人員の確保もできません。より良い治療を実現するためには経営的な安定は不可欠です。高コストが容易に想像できるTAVIを導入しようとする施設が多く存在することが不思議です。経営的な面で考えなくてもTAVIのような治療は1施設当たりの件数が多い方がきっと質も高まる筈です。安易にTAVIの実施施設が増加し、この治療法が荒まないことを願っています。

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