2013年11月23日土曜日

昨日、音楽座ミュージカル「ラブ・レター」を見てきました。今朝も魂が揺れています。 

今週末は、以前からの約束を果たすために浜松に出かけていました。常葉大学健康プロデュース学部臨床心理学教授の中島登代子先生のお誘いです。大学院生に1時間半、話をしてくださいとのことです。それとは別に院生の発表するケースカンファレンスにも参加してくださいとのことででした。憂鬱でした。

心臓という、ハートとは呼ばれるものの感情を持たない臓器を専門とする私が何を語れるのだろうかと悩んでいたからです。感情を持たない心臓を患う方には、もちろん感情が存在します。大病を患い将来が見通せなくなったことで落ち込む方、重症であるがために厳密な安静を強いられて意志のコントロールがきかなくなる方、様々な心の動きが表出してきますが、なにかアドバイスをしたり薬物によるコントロールをしたりはしてきませんでした。なぜなら私であれば、内なる世界の自らの努力で前に進みたいと思うからです。私が望まないものを患者であっても他者に押し付けたくないからです。でも引き受けたことなので憂鬱な1時間半を無事に済ませました。ほっとしているところを、中島先生からこれから大阪に行って音楽座ミュージカル「ラブ・レター」を見に行こうと誘っていただきました。

ミュージカルは鎌倉勤務時代に横浜で四季の「キャッツ」、福岡に勤務してすぐにやはり四季の「オペラ座の怪人」を見て以来です。20年ぶりくらいです。商業的な舞台に、たいして感じるものもなく、どんな舞台であったかも記憶にありません。そういえば映画「レ・ミゼラブル」を最近見て、感じるものがあったなぁなどと思いながら、気持ちも乗らないままに大阪に行きました。

中島先生は音楽座で心理の講義をされたり、劇団員との面談もされています。私の前に院生相手にお話をされたのも音楽座の方ということでした。そうした中島先生と音楽座との関係もあり、開演前のリハーサルから舞台を拝見しました。リハが終わり、会場前のひと時に劇団員が色々と話す姿を見かけます。妙に明るいのです。例えば酒に溺れて社会人としては外れたような役者が、非日常の世界を演じる世界などに興味を持つ私がみると、健康な人たちが明るく歌って踊る舞台には興味がないのだけどなどと思いながら開演を待ちました。

「ラブ・レター」は、3・11の東日本大震災による大津波や、新宿のアウトローや偽装結婚がテーマです。重いテーマに明るい劇団員という組み合わせに期待はありませんでした。ぜひ、舞台を見ていただきたいので詳細は書きませんが、フィナーレで、座席が揺れる錯覚を感じ魂が揺れました。3・11を直接に経験した人にも、直接は経験しなかった私などにも3・11が無意味であるはずがありません。スマトラ沖地震の救援に出かけ、マグニチュ-ド8を超える最大余震を現地で経験した私にとってもより大きな揺れを感じました。自身の存在を問われたような感覚です。

高層ビルが立ち並び、おしゃれな人たちが楽しそうに闊歩する大都市にあって、すえたにおいのするガード下、東京であればそこに東北の影が存在します。関西人の私であればそこに九州が存在します。発展や成長のはざまに存在する負の部分は、個々の心にも存在するように思えます。そこに触れることで大地が揺れ、魂が揺れました。

3・11後にあいた空白を埋める提案などはある由もないですが、舞台に圧倒され空白を見つめざるを得ない私がいました。

大阪をあとにし、学会に向かう博多行き最終の新幹線車内で、ふと開演前のあの劇団員の健康な明るさは何だったのだろうと考えました。うかつでした。彼らは役者です。すでに演技が始まっており、開演前の明るさと彼らが演じる舞台の間でさらに私の魂が揺れていたのです。浅薄な私の感覚は見事に役者に踊らされていました。開演前に舞台は始まっていたのです。臨床心理学者にも触れながら舞台を作り上げる彼らの罠に見事にはまりました。心地よい敗北感です。

後悔すること、中島登代子教授に誘われて招待券で見たことです。自分の意思でみずから切符を購入して観るべきでした。

音楽座のWeb-siteは下記です。
http://ongakuza-musical.com/


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