2010年12月30日木曜日

不安定狭心症の治療はタイミングが命です

Fig. 1 CAG on 23, Feb. 2009
  12/30 深夜0時過ぎに眠っていたのに急に胸が痛くなったとのことで来院されました。70歳代後半の女性です。2006年に切迫心筋梗塞で他院でLADとLCXにステント植込みをされています。当院では2007年1月にステント内再狭窄に対してCypher植込みを行い、その後は再狭窄を認めていません。Fig. 1は2009年2月に胸部症状の訴えがあったために実施したCAGの右冠動脈です。#3に25-50%狭窄を認めるのみです。
  
  深夜に来院されお話をうかがうと2週間前から労作時や冷気にさらされた時に胸痛があった由です。それが安静時にも胸痛が出現ですから不安定狭心症の典型的な経過です。Braunwald分類のClass IIIということになります。年末ということもあり、Conservative starategyではなくEarly invasive strategyとし、本日CAGを行いました。1年11ヶ月前には25-50%狭窄であった#3は90%狭窄です。
PROMUS stentを植込み良好な拡張でしたが、ST上昇が遷延しました。やはりConservative strategyが良かったのかもしれません。


Fig. 2 CAG on 30, Dec. 2010
  この方は脂質代謝異常でメバロチン(プラバスタチン)を内服中です。一貫してLDLは100mg/dl未満を維持してきました。脂質管理目標を達成しているだけでは解決にならないようです。十分な脂質管理を実施した上で、それでも発生する不安定化に対しては臨機応変な対応が必要です。いつかTVで心筋梗塞も急に発生するのではなく高血圧や脂質代謝異常から発生するのだからその管理を十分に行っていれば急性期のカテーテル治療など必要ないのだと言っている千葉県の県立病院の院長先生のインタビューを見たことがあります。この県立病院がある市の人口は6万人近くですが市内でPCIは1件も実施されていません。不幸なことです。

  この方の問題は、過去に切迫心筋梗塞で危機を経験したことがあるのに、典型的な症状が出現してもすぐに受診されなかったことです。ギリギリ間に合いましたが危ないところでした。冠動脈の病気は、ほうっておけば明日死んでしまう方でも、今日対処すれば多くの場合助かる病気です。治療を受けるタイミングが重要です。最も下策は典型的な症状があるのに様子を見ることです。どんな時に受診したらよいのかよくお話しなければいけません。すぐにおさまる胸痛でも甘く見てはいけません。

2010年12月27日月曜日

64列MDCTを使った慢性心房細動患者の冠動脈バイパス、ステントの評価


Fig. 1
70歳代半ばの男性です。2003年に左冠動脈主幹部病変のために他医でCABGを受けておられます。LITA-LAD、Ao-free radial A.-#9-#14 と吻合されましたが、LITA閉塞、#9-#14の間が閉塞しAo-free radial A.-#9だけが開存です。このため2006年にやはり他医でLMTに対してBMSが植え込まれています。当院では1度も冠動脈造影を実施していません。数年間、冠動脈を評価していなかったために本日、64列MDCTで評価することにしました。

問題はこの方も12/24のケースと同様、慢性心房細動であることです。
Fig. 2

Fig. 1を見てください。とても慢性心房細動とは思えないきれいなCTが撮れました。Fig. 2に示すようにLMTに置かれたステント内にも再狭窄がないことが明らかです。また、Fig. 3に示すように#9に繋がれたradial arteryの吻合部もきれいに描出されています。

慢性心房細動のためきれいに撮影できるか、きちんと評価できるか心配でしたが大丈夫でした。技師さんがECG editorを使ってきれいに処理してくれました。慢性心房細動患者でもCABG後の評価や植込まれたステントの評価ができれば言うことはありません。ECG editorは優れものです。
Fig. 3

2010年12月24日金曜日

64列MDCTを使った慢性心房細動患者の冠動脈評価

Fig. 1 ECG at rest
  80歳代半ばの女性です。慢性心房細動でワーファリンを処方しています。最近、胸に違和感を感じると言われるようになりました。 Fig. 1に示すように心電図は心房細動で右脚ブロックです。最も心電図で虚血を判断しづらい形です。
 心房細動では、冠動脈の評価はCTでは困難だといわれています。では狭心症を否定するために冠動脈造影しかないのでしょうか。
 Fig. 2、Fig 3に示すように64列MDCTできれいに冠動脈を評価できました。hericalに撮影するので被ばく量は少し多くなりますが、使った造影剤は42mlのみです。 左前下行枝の近位部に石灰化を伴う軽度狭窄を認めるのみです。冠動脈造影は不要です。
 良いクリスマスプレゼントになりました。気持ちよくお正月を迎えていただけます。
Fig. 2 Coronary CT om 24, Dec. 2010

Fig. 3 Coronary CT on 24, Dec 2010

2010年12月23日木曜日

Stent Fractureに関わる医師、学会、メーカー、厚生労働省やFDAの責任

  まず最初に私の薬剤溶出性ステントに対するスタンスを言っておきます。冠動脈に対するカテーテル治療のアキレス腱であった再狭窄を激減させた薬剤溶出性ステントが果たした役割を私は非常に評価しています。私自身が狭心症になればこの薬剤溶出性ステントを使って治療してほしいと思っています。こうした優れたデバイスが、その価値と比べれば小さなことでその存在を否定されないように、不十分な点を是正しより良い製品に進歩してほしいと願っています。薬剤溶出性ステントを肯定する立場であることを宣言して、その上で今、気になっている点を述べたいと思います。

   このブログで何回かstent fractureのことを書いてきました。bare metal stentでも発生すること10年と聞いていたのに非常に短い期間でも発生することfractureとおそらく関係して冠動脈閉塞も起き得ることなどです。64列MDCTの導入までこのstent fratureに関する関心を私は余り持っていませんでした。64列MDCT導入以前にはfractureの発生に気付いていなかったのです。ステント内再狭窄も冠動脈造影でfractureと気付かないままfractureとの関係を考えずに単純に再治療してきたわけです。しかし、64列MDCTで冠動脈造影よりもfractureがよく評価できるようになり、再狭窄や再閉塞との関連を考えるようになったのです。

  以前に厚生労働省も10年に相当する耐久性の試験として4億回の加速試験を承認申請の書類に添えるようにメーカーに求めていることを書きました。また、以前に確かFDAが10年間の耐久性を求めていると聞いたことがあると書きましたが、昨日、そのFDAが求めるGuidanceの書類を手に入れました。 " Guidance for industry and FDA staff. Non-Clinical Engineering Test and Recommended Labeling for Intravascular Stents and Associated Delivery Systems: April 18, 2010" という書類です。以前にもあったものの最新改訂版です。

  この中でFDAは10年間という期間はほとんどの方にとって十分に安全と言える期間であり10年間という期間が妥当であると信じると記載されています。私もこの10年という期間は妥当だと思いますし、10年という耐久性を知っていれば若い患者にはあまりステントを使用しない方が良いだろうとの判断も可能です。しかし、10年を経過せずにfractureは発生し、そうした例に関して多くのケースレポートが学会で発表され論文にもなっています。FDAがrecommendする耐久試験の結果は、10年間に相当する加速試験を実施し1%未満のfractureであることです。単純に計算すると年間の発生が0.1%未満ということになります。金属疲労は経年的に増加するはずですから植込み後1年でのfractureの発生率はこの0.1%をはるかに下回らねければならないはずです。しかし、現実の臨床の場でのfracture発生率はこの程度ではすみません。この頻度の差はin vivoとin vitroの違いだと納得して臨床の場では問題にするほどのことではないのでしょうか。

  メーカーが正しく検査してFDAや厚生労働省が正しく認可していると仮定すれば、in vitroの実験が臨床に則しておらず、試験方法に問題があると言えるのではないでしょうか。10年の間、振動を加える検査をすると10年間の開発期間が必要になるわけですから現実的ではありません。このために4億回の振動を短時間に加えるわけです。ちなみにstentの加速試験を実施するシステムはBOSEのマシンです。この装置で発生する周波数は60-120Hzです。毎秒60-120回の振動です。血管の拍動は毎分60-120回ですから60分の1の時短です。10年間かかる検査を60分の1の約2カ月で検査できる計算です。60分の1の時短は、逆にいえば60倍の周波数で検査することを意味します。構造を破壊するのは回数だけではありません。構造を破壊する固有の周波数が存在するはずです。構造の破壊検査をするのに周波数を無視した現状の加速試験には問題があるような気がしてなりません。メーカーやFDA、厚生労働省はFractureの発生頻度を踏まえて、試験方法を見直すべきであろうと思います。

  一方、現状の試験であってもその結果はFDAや厚生労働省に既に提出された公開されるべき資料ですから、体内に植え込まれる患者や、植込みを行う医師はその結果に容易にアクセスできなければなりません。FDAの最新版にはステントの各サイズで試験を実施し、どのサイズが最もfractureを起こしやすいのかという結果を示しなさい、stent のoverlapでfractureの頻度が変化するのか試験を行いなさい、bifurcationでのステント植込みでfractureの頻度が変化するのか調べなさい等と臨床で使用される状況に則した試験をrecommendしています。恥ずかしいことですがこのようなin vitroの試験結果があることさえ私は知りませんでした。それもそのはずです。どこかにこうした結果が公開されているのかもしれませんが、私は公開されているのかも公開されているのであればどこで公開されているのかも知らないのです。何mmのステントが最も弱いのか、overlapすることでfractureの頻度はin vitroでどう変化するのか、FDAに書類が提出されているのに、現場の医師には知らされていないのです。

  現在、当院で使用している薬剤溶出性ステントについて厚生労働省に提出した承認申請の書類の開示をメーカーに求めています。驚いたことにハートセンターに来ている担当者にも即答できる人がいませんでした。担当者が答えられないので私が来ましたという九州エリアの責任者という人もそのような資料の存在を知らないという始末で驚きました。植込まれる患者も植込みを行う医師も、現場に来るメーカーの担当者も、メーカーのエリア責任者も大事な試験結果を知らないのです。担当者だけが知らないのであればその担当者の能力が低いということですむかもしれませんがエリアの責任者まで知らないとなればそのメーカーの姿勢を疑わざるを得ません。

  患者さんに重大な結果をもたらすかもしれないstentを使用する医師は、その特性を知る義務を負っていると思います。そうした特性を知らずに使用してきたことで、「この重大な結果はお前の責任だ」と言われれば私は否定できません。また、多くのfractureの発生が学会で明らかにされているのにも拘らず、メーカーや行政にアラートを発しない学会にも責任はあると思います。この問題を解決するためにメーカーはどのような検査をし、どのような結果であったかを明らかにすべきです。FDAや厚生労働省に提出した承認申請書類を明らかにし、in vitroの結果と臨床の結果の乖離の原因を学会とメーカーで共同して明らかにし、正しい試験方法の開発や新しいステントの開発の方向性を見つけ出さなければならないと思います。厚生労働省が認可しながら、認可の基準である10年を大幅に下回る期間でfractureが発生していることを知りながら、メーカーに試験方法の是正を求めない行政にも責任があると思います。日本だけでも年間に10万人以上に植込まれている冠動脈ステントです。早急な対策が必要です。

  田舎の一インターベンション医の言うことですからきっと意味がないだろうと思いますが、一つの予言をします。このstent fractureの問題は近い将来、大きな社会問題としてクローズアップされ、メーカーが大きな打撃を受けるでしょう。現在、今回の私のブログようなfractureの問題の提起は一般的ではありませんが、私と同じことを考えている人はきっと私だけではないということがその予言の根拠の一つです。一つの考えが湧き出る時、世界中で同じ考えが同時に発生するものだからです。もう1つの根拠はbioabsorbable stentの出現です。新たに市場を席巻する製品が出るとき、古い製品が淘汰される過程で古い製品が学問的にも社会的にも徹底的に叩かれるということはよく起きる現象です。bioabsorbable stentが既に始まっている治験などを通じて社会や市場の認知を受け始めたらstent fractureの問題は大きくなるでしょう。

2010年12月21日火曜日

64列MDCTで戦略をたてた腎動脈狭窄に対するステント植込み


Fig.1 Eleven months after renal artery steting
  本日の腎動脈狭窄に対するstent植込みのケースです。2010年1月に腎動脈狭窄による高血圧に対してgenesis stent植込みを行った方です。DMがあり冠動脈にも2枝病変があり薬剤溶出性stentに植込みを行っています。血圧の再上昇があり、右腎動脈に再stentingを行いました。
Fig.3のCTで見ると植込んだGenesisの近位部でのステント内再狭窄が見てとれます。しかし、ステント内の再狭窄はCT画像で見ると大動脈の内膜肥厚内に起きていることがよく分かります。腎動脈狭窄に対する治療のつもりでしたがCTで評価すると実は大動脈の内膜肥厚による病変の治療であったことが分かります。前回の治療は腎動脈を意識するあまり大動脈肥厚にステントが植込まれていなかったのです。初回の植込みは良好な結果だと思っていましたがステント植込み部位はtoo distalであった訳です。とはいってもわずか1mm程度の話ですが…
Fig. 2 After restenting
  今回の再治療では大動脈の内膜肥厚を超えてステント植込みを図ることを心がけました。大動脈内にステントを飛び出させるイメージです。今回の腎動脈stentingで再狭窄を免れるか否かは何カ月か経過して結果が判明します。もしこれで再狭窄を免れたなら、CTによる評価の賜物だと言えます。6-8カ月後の結果に期待しましょう。
Fig. 3 Renal Artery CT 11 months after first stenting

2010年12月18日土曜日

BMS 植込み9年後に認められたfractureを伴わないステント内再狭窄の1例

Fig. 1 Coronary CT on 01, Nov. 2006
 本日の2例のPCIの中の1例です。60歳代後半の方で2001年頃に鹿児島市内の病院で回旋枝にステント植込みを受けておられます。BMSです。2006年の鹿屋ハートセンター開院直後から当院に通院されるようになりました。当時のLDLは97mg/dl でした。
Fig. 1に示す16列MDCTで撮影したステント内は一部にlow densityを認めますが 症状もないことより経過をみようと判断していました。その後も一貫して無症状で負荷心電図も陰性でしたが2010年4月にLDLは107mg/dl に上昇、12月には133mg/dl に上がっていました。この間にこの方の体重増は認めませんでした。
Fig. 2に示す2010年11月に64列MDCTで撮影したステント内は明らかなステント内再狭窄の所見です。Fig. 3は本日のPCIの造影です。回旋枝は99%狭窄です。Fig. 4はPROMUS stent 植込み後の造影です。

Fig. 2 Coronary CT on 06, Dec. 2010
半年ほどの急速なLDLの上昇の結果、ステント内の狭窄が起きたのでしょうか。このケースの経過をみると、血管に脂質が沈着するような脂質代謝異常の結果、LDL が上昇してきたかのようにさえ思えます。LDL と冠動脈狭窄の関係は脂質管理目標を達成しておれば良いというほど単純ではなさそうです。
また、この例のように無症状で負荷心電図陰性の場合、冠動脈CT検査や冠動脈造影の適応はあるのでしょうか。保険を審査する側の立場で考えれば、無症状で負荷心電図も陰性の方にこのような検査をするのはけしからんということになるのでしょう。しかし、そういった姿勢でこの方を見ていたとしたら、このCXは完全閉塞していたと思えます。再発し、進行する悪性疾患にも似た動脈硬化性疾患では無症状であっても定期的に検査が必要だとこのケースを見ていると思えます。
定期的な検査をという場合の間隔に一定のものはきっと存在しないでしょう。hsCRP の急な上昇やLDL の急な上昇のタイミングが適切なタイミングかもしれません。

Fig. 3 Before PCI on 17, Dec. 2010

Fig. 4 After PROMUS implantation on 17, Dec. 2010

2010年12月16日木曜日

症状をよく聞き、リスクを評価した上で冠動脈石灰化スコアを活かしましょう

Fig. 1 Coronary CT on 16, Dec. 2010
この方は60歳の男性です。農作業後の胸痛を主訴に受診されました。1日50本のheavy smokerでLDLは141mg/dlです。CTで見るとLADに50%程度の狭窄を認めるのみですが、plaque内に1点、造影剤の染み出しを認めます。vulnerable plaqueと考えられます。この部位でplaque ruptureがあり一時的に血栓で閉塞した可能性、あるいはspasmで虚血を起こした可能性なのが考えられます。この方の負荷心電図は陰性です。
このCT画像なしでこの方を見た場合、負荷心電図陰性の高LDL血症、喫煙ですから、動脈硬化学会のカテゴリーIIです。LDLの管理目標は140mg/dl未満です。することは禁煙指導、食事指導位のことかと思います。食事で低下がみられなければスタチンの投与です。
一方、このCTを見てvulnerable plaqueであると考えれば、冠動脈疾患の既往ありと判断して管理目標は100mg/dl未満です。私は後者であると判断して、リバロ1mgとバイアスピリン100mgとニトロの舌下を処方しました。禁煙を強く勧めたのはもちろんです。CTのありなしでかくも管理する方針は変わってきます。それらしい症状があり、risk factorがあればCTを撮ったほうがよいと思います。こうした場合、冠動脈造影は無力である可能性が高いと考えられます。冠動脈CTが一般的になってきたときに冠動脈CTは冠動脈造影の代替になるかという議論がありましたが、プラークの性状を評価し、治療方針を決定するためにはCTのほうが有力だとの考え方が一般的になってきました。
このところ考えていることは石灰化スコアをどう活かすかということです。石灰化スコアが100以下の場合、50%以上の狭窄が存在する可能性は3%以下だと報告されています。一方、CORE64では、狭心症が疑われて冠動脈造影目的に紹介されてきた患者群では石灰化スコアがゼロであっても20%の患者に50%以上の狭窄があったと報告されています。Gottlieb I, et al. The absence of coronary calcification does not exclude obstructive coronary artery disease or the need for revascularization in patients referred for conventional coronary angiography. J Am Coll Cardiol. 2010;55:627-34
この一見矛盾する結果の答えは簡単だと 思っています。冠動脈造影を勧められるほどのそれらしい症状やリスクがある場合は、石灰化スコアに関わらず狭窄が存在する可能性を排除できないため造影CTが必要、それらしい症状やリスクがなくて石灰化スコアが低い場合には造影せず石灰化スコアのみの評価で十分という解釈なのだと思います。本日のケースでも石灰化は冠動脈のどの部位にも認められませんでした。しかし、この所見です。症状やリスクの評価がやはり大事です。一方、それらしくない、リスクも低いという場合には造影しない選択を加え、石灰化スコアだけでも大丈夫なのでしょう。被ばく量を減らし、造影剤の負荷を軽減するために石灰化スコアを検討しましょう。よく話を聞き、リスクを評価する手間を惜しんではいけません。

2010年12月15日水曜日

私がブログを始めた訳 ネット時代の医師の生き方

本日、もしくは明日、このブログを開設してからのアクセスが10,000を超えます。この節目に私がブログを開設した目的を再確認したいと思います。

私は常に自分自身の目的意識を持って意思決定をしたいと願っています。大学医局や上司から言われて何かをさせられるというのがいやな人間なのです。1994年、私はそれまで勤務していた湘南鎌倉病院より福岡徳洲会病院に志願して転勤しました。その時の目的意識は、学会で活躍したい、目立ちたい、「ブイブイ」言いたいというものです。そのためには人口の大きな町でトップの施設を作り上げることだと考え、福岡を選びました。福岡転勤後、すぐに福岡都市圏でトップの症例数になった福岡徳洲会病院で私は対馬に出会いました。PCIをする医師がいないために都市部と比べて格段に高い死亡率を「甘受」しなければならない土地が学問の進歩に取り残されていたのです。学問や技術の進歩は万人のために存在するはずなのに、学会が相手にしない土地が存在することに気づいた私は対馬でのPCIを立ち上げる努力を始めました。対馬でPCIを始める前に急性心筋梗塞の死亡率は16%でしたが開始後の死亡率は1%に低下しました。開始後の学会の反応は好意的でした。当時の心血管インターベンション学会も日本循環器学会も世界最高峰の権威があるAHAもその成果を学会で発表することを許してくれました。一方、大学の反応は冷淡でした。心臓外科医もいない離島で医師一人が実施するPCIは危険このうえない。何かあったらどうするのかと言われました。何かあったらどうするのかと言っていた時代の死亡率は16%、たった一人の医師がPCIを始めたら1%の死亡率です。なにかあったらどうするのかという言葉でいかに多くの人が見殺しにされたかがわかります。現在、4万人しか住んでいない対馬では年間約100件のPCIがいづはら病院の守崎勝悟先生の手によって実施されています。10数年前の問題意識は守崎先生の手によって守られ実践され続けています。

対馬との出会いから私の方向性は「学会でブイブイ言いたい」ということからPCIの恩恵を受けられない穴を埋める仕事をしようということに変わりました。2000年に鹿屋にやはり志願して転勤したのはこの目的からでした。全国47都道府県の人口2位の町47都市の内、唯一PCIが実施できない町であった鹿屋にPCIの灯を灯そうという意思で転勤したのです。2005年、徳洲会を退職した時にその後どういう人生を送るかで悩みました。生まれ育った大阪でPCIをする人生を選ぶのか、縁のある福岡でするのか、鹿屋に残るかです。私がいなくても他にPCIの術者がたくさんいる大阪や福岡よりもわたしの存在がより役に立つであろう鹿屋を私は選びました。マーケットも小さく、不便で学会にも容易に行けない鹿屋を選んだのは私の目的意識に合致したからです。

かつて私はブログに何の関心もありませんでした。「どこかに旅行に行ったら楽しかった」だの「何を食ったら旨かった」だのくだらないことに限りあるインターネット資源や電力を使う気が知れなかったのです。しかし、いくつかの医師が作るブログを見て考えが変わりました。開業の先生が多いのですが、論文をよく読み、勉強し整理した内容をブログで明らかにされるのです。下手な医療記事よりもよほど役に立つブログがたくさんあることを知った私は、「くだらないたわ言」=ブログと思っていたことを恥じました。ブログがくだらないわけではなくコンテンツがくだらないだけだったのです。

学会に行く目的は何でしょうか。聴衆の立場で考えれば勉強に行くのが目的ですが、今はその内容をネットで知ることは難しくありません。PCIの実際の手技も視聴可能です。そう考えれば足を運んで参加する意味は少なくなります。発表する立場で学会に行く目的は何でしょうか。症例報告であれば自分が経験したことを多くの人に知ってもらい教訓や工夫を共有してもらうことでしょうか。臨床研究の発表を学会で行う目的は何でしょうか。自らの仮説を実証する研究成果を他から批判してもらってより高みに持ってゆくことでしょうか。これならブログやWeb siteで世に問えるのではないかと考えた結果が、「ユーザーレビューサイトの開設」に加えるもう一つの私がブログを開設した訳です。このブログでよほど良い論文を明らかにしても権威ある雑誌のreviewerの評価を受けたわけではありませんから何の権威もimpact factorもありません。しかし、昔からの権威に裏打ちされた評価はネット文化以前の形骸のような気もします。権威ある雑誌も電子版に方向性が変わり、ネットの時代の研究の発表に雑誌や学会といったコミュニティは関われなくなる可能性さえ想像します。

鹿屋への転勤後、ごく稀に行く学会で「もうPCIは引退したの?」と昔なじみの先生からよく言われました。どっこい、まだ生きています。僻地で働くために学会を諦めるというのは「Dr. コトー」時代のコンセプトです。ブログという手段を手に入れた私は、僻地でPCIをしながら学会に行かなくても発信する側としてPCIの世界に役に立ちたいと願っています。学会にもなかなか行けないという選択をした私ですが、ネット時代のブログという武器を携え、学会という場を借りずにPCIの世界に羽ばたきたいと思っています。

2010年12月14日火曜日

薬剤溶出性ステント植込み後1カ月で再狭窄をきたした透析患者の1例

Fig. 1 just after stenting on 8, Nov. 2010
患者は6年間、糖尿病由来の腎症で透析を受けておられます。2009年12月に右冠動脈入口部の狭窄のためTAXUS stent植込みを行いました。半年後の造影で再狭窄はなかったのですが2010年11月安静時の胸痛があり造影したところ同部は完全閉塞になっており再度PCIを行いEndeavor stentの植え込みを行いました(Fig. 1)
この2度目のステント植込み後1カ月も経過していないのに先週より透析中に胸痛を訴えるようになりました。回旋枝にも狭窄が残存しているためこちらが原因だろうと考え、本日造影を行いました。予想は裏切られ右冠動脈近位部ステント内の90%狭窄です(Fig. 2)。sub acute thrombosisやlate thrombosisで完全閉塞になる方はおられますが、このような狭窄となって1カ月後に再来される方は経験がありません。何が起きたのでしょうか?
Fig. 2 before PCI on 14, Dec. 2010
Fig. 1の矢印の部位は上に凸の屈曲でバルーンで拡張してもその屈曲は取れません。また、同部には高度の石灰化を初回PCI時から認めています。Fig 2の狭窄部はまさのその場所です。石灰化した屈曲が支点となってstent fractureを起こしたのでしょうか。stent fractureは以前にも書きましたが造影よりもCTでよく判明します。CTでfractureなのかどうかを見てみたいとも思いましたが、カテも入っているのにPCIもせずにCTという訳にもいきません。今度はPROMUS stentを植え込みました。
当院にPCIの研修に来ている鹿大のK先生の話では、鹿大でも植込んで間もないEndeavor stentのfractureがあったそうです。以前、ステントの耐久性は10年間分の振動に耐える振動試験を経てFDAで認可されると聞いたことがあると書きましたが、日本の厚生労働省も冠動脈ステントの承認申請にあたって10年分の振動に耐えるように4億回の加速試験を行った結果を添付するように求めていました。しかし、ステントの添付文書にはこの加速試験の結果は記載されていません。「ステントは一生大丈夫なものですか?」という質問は患者さんからよく聞かれます。少し調べればすぐに分かる形で厚生労働省やメーカーは10年間分の加速試験の結果を公表すべきだと思います。また、10年もたずにfractureが多発しているわけですから、試験方法が妥当であったか、認可に問題はなかったかを厚生労働省やFDAは検証する時期にきているような気がします。

2010年12月13日月曜日

LCXによるACSに対してはconservative strategyで、LADのCTOに対してはreterograde approachで完全血行再建に成功した1例

Fig. 1 before PCI
  この方は6か月前に10年来続く労作時の胸痛と最近出てきた安静時胸痛を主訴に受診された方です。Fig. 4に示すように後壁のakinesisがあり後壁領域の虚血による急性冠症候群(ACS)と診断し入院して頂いた方です。
  Fig. 1に示すように回旋枝の高度狭窄と前下降枝近位部の完全閉塞を認めます。ACSの責任病変は回旋枝と考え、診断カテに引き続き回旋枝にPCIを実施し、PROMUS stentを植込んで良好な拡張を得ました。この時点で既に4日間のヘパリン化を行っていたのでdistal emboliやslow flowにもなりませんでした。conservative strategyです。
 Fig. 2は前下降枝の完全閉塞に対してPCIをreterograde approachで実施している最中のワイヤーの走行です。右冠動脈から中隔枝を介して前下降枝にwireを入れそのままLADからLMTを経てガイディングカテーテルまでwireを持ちこめたために前下降枝の拡張は容易でした。
Fig. 2 during PCI to LAD

 本日は6カ月後のCAGです。途中1か月ほど抗血小板剤の服用が途絶えました。来院されなかったのです。ご自宅に何度も電話を差し上げようやく来院して頂き、内服を再開。本日を迎えました。無症状ですがまた完全閉塞で側副血行から灌流 されているのではないかと悪いことばかり考えていましたが、Fig. 3のように前下降枝にも回旋枝にも全く再狭窄を認めませんでした。PCIの実施日に成功するのはもちろん大事ですが、6-8カ月後に再発し、再治療になるとしたら、そのPCIの価値は低いものになります。再狭窄がなくて初めてPCIに成功したという実感が湧きます。
F1g. 3 Six months after PCI
  PCI前にakinesisであった後壁(Fig. 4)はFig. 5に示すように壁運動は正常化しています。拡張した冠動脈に再狭窄がないこと、失われていた心機能が回復していること、運動しても症状もなく負荷心電図も陰性であること、すべての点で最良の結果でした。
Fig. 4 before PCI
 1か月の抗血小板の中断があっても再狭窄、再閉塞のなかった方ですから抗血小板剤を中止しても大丈夫のようにも思いますが、中止する勇気が私にはありません。こうした方では、OCTでステント表面を覆う内膜を評価した上で抗血小板剤を中止するのが良いかもしれません。今後の課題です。
Fig. 5 Six months after PCI

2010年12月12日日曜日

鹿屋ハートセンターのテレビを地デジ化しました。 病院にあるカード視聴の仕組み

 本日はPCIの話でもCTの話でもありません。

 昨日、病室のテレビを地デジに更新しました。結構な出費になりましたが仕方ありません。きれいな画質になって患者さんが喜んでおられるので良しとしましょう。今日はNHKの「坂の上の雲」でもハイビジョンで見てくれることでしょう。
 4年前に鹿屋ハートセンターをオープンした時にテレビをどうするかを考えました。病院によくある購入したカードで視聴する形にするか、無料でテレビの視聴環境を提供するかです。この時、初めて知りましたが、多くの場合、カード購入式のものはそれを生業にしている業者さんから病室に貸してもらうのです。当院にもオファーがありました。施設側には1円の負担もありません。置いて頂けるのならすべてのベッドに床頭台をおまけに付けて無償で提供しますよというものでした。いくらかのキャッシュバックもありますよという提案つきです。床頭台はおよそ5万円、テレビは3万円ですから初期投資を抑えたい開設者にとってはおいしい提案です。一方、業者さんにとってはおよそ1日1000円が収入ですから8万円の投資で1年に最大で36万5千円の収入が見込めます。業者さんにとってもおいしい商売です。では win and winでよいビジネスモデルなのでしょうか。私はそう思いませんでした。3万円のテレビを見るために患者さんが最大36万5千円を負担する仕組みですから、私はとんでもないと考えたのです。win and winの関係はサービスを提供する側と受ける側の双方が利益を受ける関係であるべきで、サービスを提供する側の2者がサービスを受ける側の利益を共同して毀損することではないはずだからです。患者さんに法外な負担を強いるこの仕組みを採用しているのは民間病院だけではありません。公的病院にもこの仕組みでテレビを見せるところはたくさんあるのです。えげつない話です。
 負担は少なくありませんでしたが患者さんに余計な負担を強いるこの仕組みを私は断りました。鹿屋ハートセンターのテレビ視聴にカードはありません。無料です。ハートセンターで年を越すであろう患者さんにはハイビジョンの美しい画像で「紅白」を楽しんでもらいましょう。

2010年12月10日金曜日

Cypher stent植込み3年半後に認められた冠動脈瘤形成 CT所見とIVUS所見

Fig. 1 Coronary CT
この方は安定狭心症の方で3年半前にLADにCypher stent植込みをIVUS guide下に行った方です。Fig. 1に示すようにstent内に再狭窄を認めません。ただ他枝に 新規病変を認めたために本日CAGを行いました。
3年前に再狭窄を認めなかった(Fig. 2)LADに動脈瘤様の拡張を認めます(Fig. 3)。振り返ってCT画像を見ると、確かにstent外に造影される部分を認めます。振り返って見るまで気付きませんでした。今回のCAGの対比でstent植込み後の冠動脈瘤形成のCT画像を理解できました。
他枝のPCIの終了後に、動脈瘤をIVUSで観察しました。Fig. 4に示すstent distal edge部は拡張した時のまま3mmでappositionも良好です。一方、stent bodyではstentは内膜から完全に浮いておりlate incomplete appositionの所見です。
Fig. 2, 6months after Cypher implantation
 こうしたCypher植込み後の冠動脈瘤形成は1.25%の頻度で発生すると報告されています。(Fernando Alfonso et al, Coronary Aneurysms After Drug-Eluting Stent Implantation.Clinical, Angiographic, and Intravascular Ultrasound Findings. J Am Coll Cardiol, 2009; 53:2053-2060) また、DES植込み後の冠動脈瘤形成は急性冠症候群に対する植込み後に多いこと、瘤形成はその後のstent血栓症の危険因子であることが報告されています。
 今後、この方の管理をどうしてゆけばよいのでしょうか。stent植込み後3年以上が経過していますが今後も継続して2剤の抗血小板剤の投与が必要だと思っています。これだけの瘤を形成しながらもstent血栓症を起こさなかったのはこれまでも2剤の抗血小板剤の投与を続けてきたからではないかと考えます。
Fig. 3 3.5 years after Cypher implantation

この瘤の血管径はIVUSで見ると6mm程度あります。distal edgeの血管径の2倍です。拡張した部位でも内膜は観察可能なので真性瘤です。仮性動脈瘤ではありません。拡張時にruptureしたことが原因ではないと判断できます。stent血栓症は2剤の抗血小板剤で防ぐとして、このまま瘤が拡大して破裂の可能性はないのでしょうか。3DCTで経過を見て、冠動脈瘤が縮小したというcase reportもあり、そうした経過に期待したいところですが油断禁物です。今回学習したstent植込み後の冠動脈瘤形成のCT所見をしっかりと頭に入れて、気をつけて見てゆかねばなりません。
Fig. 4 IVUS image at distal stent

Fig. 5 IVUS image at stent body

2010年12月9日木曜日

冠動脈バイパス後患者の64列MDCTによる評価

Fig. 1
  冠動脈CTで評価するのが非常に適していると考えられるのが冠動脈バイパス(CABG)後の方です。この方は2007年に左冠動脈主幹部の狭窄が原因の不安定狭心症で来院され、大隅鹿屋病院の心臓外科でCABGをしていただいた方です。術後は安定し胸部症状はありません。心電図が右脚ブロックのために、負荷心電図での虚血の評価は無力です。術後3年半が経過し、CTで評価しました。Fig. 1で示すように繋いだ左内胸動脈-左前下行枝(LITA-LAD)、大伏在静脈-高位側壁枝(Ao-SVG-HL)がきれいに描出されます。若干のHerical特有のartifactはありますが診断には問題ありません。
Fig. 2 LITA-LAD
Fig. 2ではLITAの内膜に問題ないことも一目瞭然です。ここには示しませんがSVGの内膜にも問題を認めませんでした。将来、このSVGが変性した時に、そこに対するインターベンションの安全性をCT画像は保証してくれるような気がします。バイパスグラフトは心拍動の影響を受けにくいためCTで細かな評価が可能なのです。
 CABG後の評価の目的はグラフトの開存性とnative coronaryの評価です。本例でも閉塞した左冠動脈主幹部を含めてnative coronary の評価も十分です。これらをすべてカテで見ようと思えば造影剤量は100ml程度は必要になります。今回の造影で使用した造影剤は55mlでした。CABG後の評価の場合CTによる評価のほうが患者には優しいといえます。
 造影剤の量やカテに関わる手間だけではありません。安全性の問題があります。かつて内胸動脈の造影で内胸動脈に解離を作りクリティカルになったケースを聞いたことがあります。しかしCTではそのような問題は起こしません。CABG後の評価にはCTがカテに比べて圧倒的にベターと言えると思います。
 今後、余程の理由がなければCABG後のカテはしないつもりです。



Fig. 3 native LCA

2010年12月2日木曜日

ユーザーレビューサイトの開設でユーザー主導の高額医療機器マーケットの創設を!!

 当ブログを2010年9月30日に初めてアップしてから2ヶ月が経過しました。本日までに8000アクセスを超え、予想していたよりも多いアクセスに驚いています。最もアクセスが多かった記事はなぜOptima CT660proなのか 機種選定にまつわる色々でした。多くの方が機種選定に頭を悩ましているのだと思います。私自身も64列MDCT導入に当たってどの機種にするか悩んだので気持ちは良く分かります。画質はどうなのか、操作性は?、それに関係して患者のスループットはどうなのか、故障の頻度やサポートの体制はどうなのか、導入コストはどのくらいかかるのか、保守料を含めた維持経費はどれほどかかるのかなど考える点は多々あります。しかし、こうしたことの多くは手に入りやすい情報ではないのです。
自動車を購入するとします。スペック情報はメーカーのホームページで容易に手に入りますし、購入したユーザーの使い勝手や値引き情報も、自動車雑誌やネット上で容易に手に入れることが可能です。そうした情報を入手した上で、店頭に赴き試乗することも可能です。しかし、高額医療機器の場合、もちろん試乗はできませんが、ユーザーレビューもなければ価格情報も存在しないのです。メーカーから示されるカタログだけで医療機関の命運を決める意思決定をするのです。こうした市場は健全といえるのでしょうか。
既に当院に導入したOptima CT660proの悪口を私は言うつもりもありませんし、実際のところ、その画質や操作性、初期費用やランニングコストに満足しています。しかし、私が導入を決定する時にはこのような情報は全く存在しなかったのです。私は、これから導入する医療機関の皆さんが私のレビューを参考にしてくれれば良いと思いますし、他のメーカーのユーザーも同様のレビューサイトを開設してほしいと願っています。そうしたレビューサイトの評価が、メーカーに還元されより良い装置が開発されたり、評価が高いが故に勝ち組のメーカーになるのが健全なマーケットのような気がします。ユーザーレビューが決定する高額医療機器のマーケット創設こそが私がこのブログを立ち上げた最も大きな動機です。東芝のユーザーも、フィリップスのユーザーも、シーメンスのユーザーもどうかレビューサイトを開設してほしいと思います。もちろん、GEの他のユーザーもです。

2010年12月1日水曜日

避けて通れない最期に向き合って  循環器医のターミナルケア

Fig. 1
 本日はPCIのことでも冠動脈のことでもありません。3年前に心不全で来られた方です。最大径66mmの上行大動脈瘤があり大動脈弁閉鎖不全が原因の心不全でした。利尿剤で心不全はコントロールできましたが、一時しのぎに過ぎません。大動脈弁閉鎖不全の治療ができなければ心不全を繰り返します。ただこれだけの上行大動脈瘤があるわけですから大手術になります。この時点で90歳を超えていました。御家族と相談し手術をしない方針としました。3年が経過し再び呼吸困難で入院です。瘤径は77mmになり右主気管支は圧迫され詰まる寸前です(fig. 1)。図には示しませんが、大量の心のう液も認めます。おそらく、瘤から出血しているのでしょう。最後のときが近づいています。
 勤務医であった頃、5-6年で勤務する病院を替わりました。24歳から29歳まで勤務した大阪の阪和記念病院時代、29歳から34歳まで勤務した関西労災病院時代には自分のスキルアップで精一杯でした。34歳から39歳まで勤務した湘南鎌倉病院、39歳から45歳まで勤務した福岡徳洲会病院時代にはスキルアップと共に、チームとしてどのような実績をあげるかに軸足がありました。45歳から50歳まで勤務した大隅鹿屋病院では院長として病院の経営に集中していました。もちろん、どの時期でも患者さんの病気に向かい、冠動脈治療を専門にしてきたわけですから冠動脈病変をどう治療するかの努力を粗末にしたとは思いません。しかし、5年後、10年後の患者さんの人生まで考えが及ばなかったように思います。患者さんの人生ですから医者が口を挟むべきではないかもしれませんが、人生に大きく影響する病気に携わっているわけですから、その方の人生に無関心で良い筈もありません。鹿屋ハートセンターをオープンして私の大事に思う基準が変化してきているように感じます。
 鹿屋ハートセンターに通われる方の平均年齢は70歳を超えます。80歳以上の方も少なくありません。5-6年で転職するのであれば問題はありませんが、最後の職場として働くこの場所では5年後、10年後に通っていて良かったと思ってもらいたいと考えます。開院から4年が経過し、心臓病で通っておられた方からも多くの癌が見つかりました。幸い早期で手術できた方もおられますし、手術不能で最期を迎えた方もおられます。5年後、10年後には今通院されている方の多くが最期を迎えることは間違いがありません。私が直接治療できること、私が直接治療できなくとも適切な治療を受けられるように手配することで少しでも幸せで活動的な期間が延びるように努力しなければなりません。それでも間違いなく訪れる最期にはご本人やそのご家族に悔いのない終末を送って頂きたいと思います。
 利尿剤の投与後にこの方の呼吸苦はなくなりました。しかし、SPO2は90%を切ったままです。次に苦しくなったとき、酸素を投与すればCO2ナルコーシスになるかもしれません。でも求められれば酸素をあげたいと思います。精一杯、わがままを聞いてあげたいと思います。医療ドラマによく出てくる心タンポナーデに対する心のう穿刺やドレナージはこの方の本質的な治療にはなりません。なるべく針は刺さないつもりです。御自宅に戻りたいのであればご自宅へ、心配だから入院を続けたたいとのことであれば入院を続けさせてあげたいと思います。もう医者としてできることは、あまりありません。人としてできることを考えたいと思います。